データ分析に基づくリードスコアリングと商談予測で営業効率と受注率を改善
はじめに
企業の成長において、効率的かつ効果的な営業活動は不可欠です。しかし、多くの企業では、どの見込み顧客に注力すべきか、商談の成約確度はどの程度かといった判断が、個々の営業担当者の経験や勘に頼る属人的なものとなりがちです。このような状況は、営業リソースの非効率な配分や機会損失につながる可能性があります。
近年、顧客データや営業活動データを分析し、データに基づいた科学的なアプローチで営業効率を高める「データドリブン営業」が注目されています。本記事では、あるサービス提供企業がデータ分析に基づいたリードスコアリングと商談予測を導入することで、営業効率と受注率の改善に成功した事例をご紹介します。
事例概要
本事例の対象となるのは、法人向けに専門性の高いコンサルティングサービスを提供する中堅企業です。従業員数は約300名、営業組織はインサイドセールスチームとフィールドセールスチームに分かれており、年間数百件の見込み顧客からの問い合わせや展示会での獲得リードを扱っています。
直面していた課題
この企業は、以下の課題に直面していました。
- リードの質の判断と優先順位付けが困難: 獲得したリードに対する営業担当者の主観的な評価に依存しており、成約確度の高いリードを見逃したり、逆に成約につながりにくいリードに過剰なリソースを費やしたりしていました。
- 商談の進捗状況と確度の不透明さ: 営業パイプラインの管理は行っていましたが、各商談の現在の状況や今後の見込みに関する客観的な情報が不足しており、正確な売上予測やリソース計画の策定が難しい状況でした。
- 営業活動の効率性低下: 適切なリードへのアプローチが遅れたり、成約確度の低い商談に時間を取られたりすることで、営業担当者一人あたりの生産性が伸び悩んでいました。
- 受注率の停滞: 上記の要因が複合的に影響し、全体の受注率が目標水準に達せず、競合に対して劣位に立たされるリスクがありました。
これらの課題を解決し、持続的な事業成長を実現するために、データに基づいた客観的かつ効率的な営業プロセスの構築が求められていました。
データドリブンなアプローチと具体的な取り組み
同社はこれらの課題に対し、データ分析に基づくリードスコアリングと商談予測モデルを導入するデータドリブンなアプローチを採用しました。具体的な取り組みは以下の通りです。
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データ統合と整備:
- CRMシステムに蓄積された過去のリード情報(問い合わせ経路、属性、過去のやり取り履歴など)と商談情報(商談ステージ、活動記録、受注/失注結果など)を統合。
- マーケティングオートメーション(MA)ツールやWebサイトアクセスログからの行動データ(メール開封率、Webサイト閲覧履歴、資料ダウンロード履歴など)も連携。
- これらのデータをデータウェアハウスに集約し、分析可能な形に整備しました。
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リードスコアリングモデルの構築:
- 過去のリードデータを分析し、受注につながったリードとそうでないリードの特徴を機械学習モデルで学習させました。
- 具体的には、リードの属性情報、行動データ、過去のやり取り履歴など、約50種類の項目を特徴量として使用。
- ロジスティック回帰や勾配ブースティングといったアルゴリズムを用いて、各リードの成約確度を0〜100のスコアとして算出するモデルを構築しました。
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商談予測モデルの構築:
- 進行中の商談データを対象に、現在の商談ステージ、営業担当者の活動記録(訪問回数、提案内容など)、顧客の反応、期間といった要素を分析。
- モデルは、商談が最終的に受注に至る確率を予測するように設計されました。
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営業プロセスへの組み込みと活用:
- 算出されたリードスコアをCRMシステムに表示させ、インサイドセールスが優先的にアプローチすべきホットリードを瞬時に識別できるようにしました。
- フィールドセールスは、商談予測スコアを参照しながら、注力すべき商談、追加のアクションが必要な商談などを判断できるようになりました。
- モデルの予測結果を基に、営業マネージャーはチーム全体のパイプライン状況をより正確に把握し、リソース配分や個別の商談に対するアドバイスの質を高めました。
- 営業担当者向けに、データに基づいた示唆の活用方法に関するトレーニングを実施しました。
導入したデータ技術や分析手法
- データソース: CRMシステム、MAツール、Webアクセスログ
- データ基盤: クラウドベースのデータウェアハウス
- 分析ツール/言語: Python (pandas, scikit-learn), SQL
- 分析手法: 機械学習(ロジスティック回帰、勾配ブースティング)、特徴量エンジニアリング
- 可視化ツール: BIツール (Tableau, Power BIなど)
データ活用によって得られた具体的な成果・効果
このデータドリブンな取り組みにより、同社は導入後1年で顕著な成果を達成しました。
- 受注率が12%向上: リードスコアリングにより質の高いリードに集中的にアプローチできたこと、および商談予測に基づき適切なタイミングでフォローアップや戦略修正ができたことが貢献しました。
- 営業担当者一人あたりの月間商談数が18%増加: リードの優先順位付けにより、不確実なリードへの対応時間が削減され、効率的に質の高い商談機会を創出できるようになりました。
- 平均営業サイクルタイムが15日短縮: 商談予測を活用した早期の課題特定と、適切なタイミングでの次のアクション実行により、成約までの期間が短縮されました。
- 失注したリードに対する初期アプローチコストを年間15%削減: 低スコアのリードに対する初期段階での過剰なアプローチを抑制できたためです。
- 売上予測精度が20%向上: 商談予測モデルにより、月末や四半期末における売上予測の信頼性が高まり、経営判断やリソース計画の精度が向上しました。
これらの定量的な成果に加え、営業組織全体でデータに基づいた議論が活発化し、より戦略的かつ客観的な営業活動へと意識が変化したという定性的な効果も得られました。ROIとしては、導入コストに対して年間約300%のリターンが見積もられています。
成功の要因分析
本事例におけるデータ活用の成功要因は複数考えられます。
- 明確なビジネス課題との紐付け: データ活用が、単なる技術導入ではなく、「リードの質の判断」「商談確度の向上」「営業効率向上」といった具体的な営業課題の解決策として位置づけられたこと。
- 営業組織との密な連携: モデル構築の初期段階から営業担当者やマネージャーのインサイトを取り入れ、彼らが実際に活用できる形でシステムに組み込んだこと。一方的な導入ではなく、現場の協力を得られたことが大きいです。
- 高品質なデータの確保と整備: 分析の基盤となるCRMやMAデータの整合性を高め、継続的にデータ品質を維持する体制を構築したこと。
- 継続的なモデルの改善と運用: 導入後もモデルの予測精度を定期的に評価し、新たなデータや営業プロセスの変化に合わせてモデルを更新・改善する運用体制を確立したこと。
- 経営層のコミットメント: データドリブン営業への変革に対する経営層の理解と積極的な支援があったことも、組織全体での取り組みを推進する上で不可欠でした。
結論・教訓
この事例は、データ分析に基づくリードスコアリングと商談予測が、営業活動において極めて有効な手段であることを明確に示しています。経験や勘に頼りがちな領域にデータを導入することで、リソース配分を最適化し、営業効率と受注率といった主要KPIを大幅に改善することが可能です。データドリブンな意思決定は、単なる技術の導入に留まらず、組織文化やプロセス変革を伴うことで、真価を発揮します。
今後の展望
同社は今後、これらのモデルをさらに洗練させるとともに、顧客のオンボーディングやアップセル/クロスセルといった顧客ライフサイクル全体のデータ分析にも取り組みを拡大していく計画です。また、インサイドセールスとフィールドセールスの連携を強化するために、両者が共通のデータに基づき効果的に協業できる仕組みを構築していく意向です。この事例から、データ分析は営業分野においても継続的な改善と新たな価値創出の源泉となることが示唆されます。